アルカリシリカ反応(ASR)は、H30・R2・R6と出題されている劣化系の頻出テーマです。R2では「新設の設計・施工」「既設の調査・診断」「既設の補修」のどれを対象とするか自分で選ぶという珍しい形式で問われました。
つまりASRは、同じメカニズムから3方向へ展開できるように準備しておく必要があります。この記事では解答例を4つ載せています。
- [R6]Ⅱ-1-3:変状のメカニズム+調査+補修
- [R2]Ⅱ-1-4:新設の設計・施工/既設の調査・診断/既設の補修 の3パターン
- あわせて、3要素・4ステージ・抑制3対策という暗記の骨格を整理します
- 出題実績 H30 / R2 / R6
- 選択科目Ⅱ-1
- 解答例4パターン
- 示方書[維持管理編]2022・[設計編]
1. ASRとは(3要素と劣化メカニズム)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | コンクリート中のアルカリ性の水溶液と、骨材中の反応性シリカ鉱物(火山ガラス・チャート等)が化学反応を起こしてアルカリシリカゲルを生成し、異常な膨張によってコンクリートにひびわれ等の劣化を引き起こす現象である。 |
| 発生の3要素 | ①アルカリ + ②反応性シリカ鉱物 + ③水分(1つでも断てばASRは進行しない) |
| 細孔溶液 | セメントの水和に伴い、NaOH・KOHを主成分とする強アルカリ性(pH13〜13.5)の水溶液となる |
| ひびわれの形 | 無筋コンクリート=亀甲状(マップクラック)/鋼材による拘束がある場合=拘束方向に沿ったひびわれが顕著 |
- セメントの水和 → 細孔溶液が強アルカリ性(pH13〜13.5)になる
- 骨材中の反応性シリカ鉱物と化学反応 → アルカリシリカゲルを生成
- ゲルが外部から水分を吸収 → 体積膨張
- 膨張圧がコンクリートの引張強度を超える → 骨材内部・セメントペーストにひびわれ発生
- 無筋=亀甲状(マップクラック)/有筋=拘束方向に沿ったひびわれ
「3要素」を軸にすると、すべてが説明できる
ASRの答案は3要素(アルカリ・反応性シリカ・水分)から逃げないのがコツです。
- 新設の設計=アルカリ総量の抑制・無害な骨材の使用で①②を断つ/水掛かり防止で③を断つ
- 既設の補修=水処理・表面処理で③を断つのが基本。断てない場合は亜硝酸リチウムでゲルを非膨張化、または巻立てで力学的に封じ込める
「なぜその対策なのか」を問われたら、3要素のどれを断つ話なのかに戻して書けば外しません。
2. 劣化の4ステージ(調査方法・補修方法)
| ステージ | 概要・特徴 | 調査方法 | 補修方法 |
|---|---|---|---|
| ①潜伏期 | ASR(ゲル生成)は進行しているが、膨張とそれに伴うひびわれがまだ発生していない期間。 | 日射・雨掛かり・海水や凍結防止剤の影響等、ASRを促進させ得る環境作用の調査。 | 外部からの水分浸入を防ぐ水処理(止水・排水処理)および表面処理(表面被覆・表面含浸)。 |
| ②進展期 | 水分とアルカリの供給下で膨張が継続的に進行し、ひびわれが発生するが鋼材腐食はない期間。変色やゲルの滲出が見られる場合がある。 | ひびわれの幅・長さ・密度の調査、ひびわれや変形量(たわみ・そり等)の定期的な計測による膨張進行の確認。 | 水処理・ひびわれ注入・表面処理(被覆・含浸)。 |
| ③加速期 | ひびわれが進展・拡大し、鋼材腐食が発生する場合もある期間。さび汁が見られることもある。 | ひびわれと膨張挙動の経時的変化の把握。コンクリートの強度・弾性係数の測定。鋼材の腐食・損傷の確認。 | 水処理・ひびわれ注入・表面処理・剥落防止対策。亜硝酸リチウム内部圧入工法・断面修復・PC導入・接着・巻立て等。 |
| ④劣化期 | ひびわれの幅・密度がさらに増大して段差やずれが生じ、過大な膨張圧により鋼材が降伏・破断し、耐力の低下が顕著となる期間。 | 鋼材の損傷(鉄筋破断等)の探査。部材の耐荷力調査。変位・変形の計測。 | 水処理・ひびわれ注入・断面修復・PC導入・接着・巻立て(鋼板・PC・連続繊維)・外ケーブル等。 |
塩害の4ステージとの違い
塩害のステージ区分が「鋼材腐食がどこまで進んだか」で切られているのに対し、ASRは「膨張とひびわれがどこまで進んだか」で切られています。ASRで鋼材腐食が出てくるのは加速期以降(ひびわれからCl⁻や水分が入るため)で、劣化期には膨張圧そのもので鋼材が破断します。
ASR特有の「鉄筋破断」は、ほかの劣化機構では出てこない語です。劣化期の記述で使うと効きます。
3. 解答例①[R6]Ⅱ-1-3:変状のメカニズムと補修
[R6]Ⅱ-1-3
コンクリート構造物の変状には、アルカリシリカ反応、塩害、火害などがある。この3種類の変状の中から1つ選択し、その変状のメカニズムを概説せよ。
また、選択した変状の程度を調査する方法、及び変状の程度を考慮した補修方法について述べよ。
出題文の読み取りポイント
- 要求は「メカニズムの概説」「変状の程度を調査する方法」「変状の程度を考慮した補修方法」の3つ。
- ASRを選ぶ場合、調査の核は残存膨張量試験です。「膨張が今も進行中なのか、収束したのか」で補修方針が変わるため、ここを外すと補修の記述が根拠を失います。
参考文献:2022年制定 コンクリート標準示方書[維持管理編]1編 劣化機構 7章 アルカリシリカ反応/コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル 2022年版
この解答例の骨格
| ブロック | 書いていること | ねらい |
|---|---|---|
| 1.メカニズム | 水酸化アルカリ+反応性シリカ鉱物 → ゲル生成 → 水分吸収で膨張 → 引張応力 → 無筋は亀甲状/有筋は拘束方向のひびわれ | ひびわれの形の違いまで書くと、現象を理解している答案になる |
| 2.(1)調査方法 | 第一:外観(ひびわれパターン・ゲルの滲出・変位)/第二:コア採取+偏光顕微鏡/第三:残存膨張量試験 | 外観 → 微視的 → 将来予測と掘り下げる。目的は「劣化過程や進行性の判定」 |
| 2.(2)補修方法 | 潜伏・進展期=表面含浸で水分を絶つ/加速期(膨張進行中)=亜硝酸リチウム内部圧入+拘束補強/劣化期(鋼材破断等)=部材交換・外ケーブル | ステージ別に書き分け、「程度を考慮した」に直答 |
4. 解答例②〜④[R2]Ⅱ-1-4:3パターン
[R2]Ⅱ-1-4
①〜③に示すコンクリート構造物の劣化現象について1つを選択し、その劣化メカニズムを概説せよ。また、選択した劣化現象に対して、新設構造物の設計・施工における留意点、若しくは既設構造物の調査・診断、又は補修における留意点を説明せよ。
(なお、①〜③のどれを選択したか。また、「新設構造物の設計・施工」「既設構造物の調査・診断」、若しくは「既設構造物の補修」のいずれを対象としたかを、必ず答案用紙の最初に明記すること。)
①水分浸透を考慮した中性化による鋼材腐食
②凍結防止剤散布環境下における凍害
③アルカリシリカ反応
この形式で最も大事な戦略
3つのうちどれを対象にしても、前半の「劣化メカニズム」は同じです。実際、下の3つの解答例は1〜10行目がほぼ同一の文章になっています。
つまり、メカニズムの8行を「型」として完全に暗記しておき、本番では後半だけを対象に応じて差し替える——これがこの出題形式の攻略法です。前半で悩む時間をゼロにできるぶん、後半の専門的な記述に時間を回せます。
また、「①〜③のどれを選んだか」と「新設/調査・診断/補修のどれを対象としたか」を答案用紙の最初に明記する指示があります。3つの解答例とも、この宣言に2行使っています。
解答例② 新設構造物の設計・施工
新設パターンで書ける数値
- アルカリ総量 3.0kg/m³以下(Na₂O換算)——ASRで唯一の明確な規制値。必ず入れます。
- 高炉セメントB種等の混合セメントの使用。
- 骨材の反応性試験=化学法またはモルタルバー法で区分A(無害)を選定。
この3つが、示方書でいう「ASR抑制3対策」(①アルカリ総量の抑制/②混合セメント等の使用/③無害と判定される骨材の使用)にそのまま対応します。厳しい環境ではこれらを併用する、と書ければ完璧です。
解答例③ 既設構造物の調査・診断
調査・診断パターンで加点を狙う2点
- 1年以上の継続調査:ASRの膨張は温度依存性が高く、夏に進行し冬に停滞する「階段状の挙動」を示します。単発の調査では進行中なのか収束したのか判断できません。上の解答例には入っていない論点なので、余白があれば足すと差がつきます。
- 弾性係数の低下:ASRの影響を受けたコンクリートは、圧縮強度の低下よりも弾性係数の低下が早期かつ鋭敏に現れます。進行度合いの定量的推測に使える、ASR特有の力学的特徴です。
解答例④ 既設構造物の補修
補修パターンの筋書き
「まず残存膨張量試験 → 膨張が収束か進行中かで工法を分ける」という判断の流れが、この答案の背骨です。
- 収束している:ひびわれ注入・表面被覆で水分を遮断すれば足りる
- 進行中:表面被覆だけではひびわれに追従できず破断して再劣化する。だから亜硝酸リチウム内部圧入(化学的にゲルを非膨張化)やCFRP・RC巻立て(力学的に封じ込め)を併用する
最後に「3要素の一つである水分を制御して再劣化を防止する」と、冒頭のメカニズムに回収しているのがこの答案の上手いところです。
3パターンの比較
| 対象 | 柱① | 柱② | 核になる語 |
|---|---|---|---|
| ②新設の設計・施工 | ASRを抑制する設計(アルカリ総量3.0kg/m³以下・高炉セメントB種) | 無害な骨材の選定と施工(化学法・モルタルバー法・区分A/単位セメント量・締固め) | 抑制3対策 |
| ③既設の調査・診断 | 外観調査による変状と健全度区分の判定 | コア採取+偏光顕微鏡+残存膨張量試験による進行性診断 | 進行性の判定 |
| ④既設の補修 | 劣化段階に応じた補修工法の選定(収束=注入・被覆/進行中=亜硝酸リチウム) | 補強工法の適用と再劣化防止(CFRP・RC巻立て/水分の遮断) | 膨張が収束か進行中か |
5. 留意点の整理(ノート版)
新設・設計
ASR抑制対策として「アルカリ総量の抑制」「アルカリ骨材反応抑制効果をもつ混合セメント(高炉セメント等)の使用」「無害と判定される骨材の使用」を適用し、厳しい環境ではこれらを併用する。水掛かりを防止する水切りや防水工を計画する。
▶ 理由:ASRの発生と進行には「アルカリ」「反応性シリカ」「水分」の3要素が不可欠であるため、設計段階で材料選定により内部要因を根本から排除・低減することが最大の予防策となるためである。新設・施工
使用セメントの全アルカリ量、単位セメント量、骨材の産地と岩種、混和材料の有無と量等の品質データを厳格に記録し、維持管理へ引き継ぐ。
▶ 理由:ASRによる変状が顕在化するには建設後数年〜数十年を要し、竣工時の検査でASRの発生を確認することは不可能なためである。将来変状が発生した際に原因を特定し、的確な劣化予測と対策を行うためには施工時の正確なデータが不可欠なためである。既設・調査
日射を受けて温度が高くなる箇所、雨掛かり等で常に水分が供給される箇所、海水や凍結防止剤等により塩化物が供給される箇所を的確に把握し、ひびわれの幅や長さ、部材の変形量を季節変動を含めて1年以上継続的に調査する。
▶ 理由:ASRは温度や水分の供給といった環境作用の影響を強く受け局所的に偏在するためである。ASRの膨張挙動は温度依存性が高く「階段状の挙動」を示すことが多いため、単発の調査ではなく長期間にわたる点検データに基づかなければ的確な判断ができないためである。既設・診断
コンクリートの圧縮強度と弾性係数の低下傾向の違いを評価に活用し、塩害や凍害等との複合劣化の可能性を考慮して構造物の性能評価を行う。
▶ 理由:ASRの影響を受けたコンクリートは圧縮強度の低下よりも「弾性係数の低下」が早期かつ鋭敏に現れるという力学的特徴があり、進行度合いを定量的に推測できるためである。ASRのひびわれを通じてCl⁻や水分が侵入すると鋼材腐食や凍害が誘発・加速され、急速な耐力低下を招く危険性があるためである。補修最重要
外部からの水分の浸入を遮断する「水処理・表面処理」を基本とし、膨張が継続している場合は亜硝酸リチウム内部圧入工法や、巻立て工法等による力学的な拘束を併用する。
▶ 理由:アルカリシリカゲルの膨張は「水分の吸収」によって引き起こされる物理的過程であるため、外部からの水分の供給を絶つことが劣化進行を根本から抑制する上で最も確実な対策となるためである。膨張圧が大きく劣化が進展している場合は表面被覆材がひびわれに追従できずに破断し再劣化を招くため、リチウムイオンによりゲルを非膨張性化する化学的対策や、連続繊維シートの巻立てによって膨張エネルギーを力学的に封じ込める構造的対策が必要となるためである。6. 答案に入れたいキーワード集
- 定義・発生要因
- 発生3要素:アルカリ+反応性シリカ鉱物+水分火山ガラス・チャート細孔溶液 pH13〜13.5NaOH・KOH
- 症状
- アルカリシリカゲルの生成水分吸収による体積膨張マップクラック(亀甲状ひびわれ)拘束方向に沿ったひびわれゲルの滲出鉄筋破断
- 4ステージ
- 潜伏期進展期加速期劣化期
- 設計(抑制3対策)
- アルカリ総量の抑制(3.0kg/m³以下)混合セメント(高炉セメントB種等)の使用無害と判定される骨材の使用水切り・防水工
- 骨材の試験
- 化学法モルタルバー法区分A(無害)
- 施工
- 全アルカリ量・単位セメント量の記録骨材の産地・岩種の記録維持管理への引継ぎ
- 調査・診断
- 1年以上の継続調査(階段状の挙動)ひびわれ幅・長さ・密度偏光顕微鏡観察残存膨張量試験(促進養生試験)弾性係数の低下が早期かつ鋭敏健全度区分複合劣化
- 補修工法
- 水処理(止水・排水)表面被覆・表面含浸ひびわれ注入亜硝酸リチウム内部圧入工法(ゲルの非膨張性化)CFRP巻立て・RC巻立てPC導入外ケーブル剥落防止対策
7. まとめ
- ASRは3要素(アルカリ・反応性シリカ・水分)がすべての起点。対策は「どれを断つか」で説明する。
- メカニズムは「強アルカリの細孔溶液 → 反応性シリカと反応 → ゲル生成 → 水分吸収で膨張 → 引張強度超過 → ひびわれ」。無筋=亀甲状、有筋=拘束方向。
- R2形式は前半のメカニズム8行を「型」として暗記し、後半だけ新設/調査・診断/補修に差し替える。
- 新設の数値はアルカリ総量3.0kg/m³以下、骨材は化学法・モルタルバー法で区分A。
- 既設は残存膨張量試験で「進行中か収束か」を判定してから工法を選ぶ。進行中なら亜硝酸リチウムと巻立て。
- 診断の隠し味は弾性係数の低下と1年以上の継続調査。
参考文献
・2022年制定 コンクリート標準示方書[維持管理編]1編 劣化機構 7章 アルカリシリカ反応/[設計編]
・コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル 2022年版
※本記事は筆者が学習用にまとめた個人の備忘録です。試験対策としての正確性を保証するものではありませんので、必ず最新の示方書等の原典をご確認ください。
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