曲げ破壊・せん断破壊

曲げ破壊とせん断破壊は、コンクリート構造設計の根幹にある「破壊モードの制御」というテーマです。H28にⅡ-1-7として直接問われ、R4など耐震設計まわりの出題でも耐力階層という形で必ず顔を出します。

この分野は暗記ではなく、「じん性的な曲げ破壊」と「脆性的なせん断破壊」の対比を1本の軸として理解すれば、どんな問われ方でも書けるようになります。

  • 2つの破壊形態のメカニズムと特徴を連鎖で整理
  • [H28]Ⅱ-1-7 の解答例(600字)と骨格
  • 脆性破壊を防ぐ設計上の留意点2つ(曲げ破壊先行型/過補強の禁止・横拘束)
  • 出題実績 H28 / R4(耐震設計関連)
  • 選択科目Ⅱ-1
  • 600字×1枚
  • 示方書[設計編]2022年制定
目次

1. 2つの破壊形態を対比する

破壊形態メカニズム特徴・じん性危険度
曲げ破壊
(じん性的)
曲げモーメント → 引張縁に曲げひびわれ → 引張鉄筋が先行降伏 → たわみ増加 → 圧縮縁のコンクリートのひずみが限界 → 圧縮破壊(圧壊)大きなたわみ(変形の予兆)を伴い、エネルギー吸収量が大きい → じん性的破壊塑性ヒンジを形成し、構造系として冗長性・修復性を発揮
せん断破壊
(脆性的)
曲げひびわれ発生後、鉄筋の降伏前に斜めひびわれ(せん断ひびわれ)が発生 → せん断補強鉄筋が降伏 → ひびわれが圧縮縁を貫通 → 急激な荷重低下大きなたわみを伴わず小さい変形で破壊。エネルギー吸収量が少ない → 脆性的破壊耐荷能力を急激に喪失 → 構造物全体の崩壊(落橋・倒壊)に直結

曲げ破壊のメカニズム

  1. 曲げモーメントの作用 部材の引張縁に曲げひびわれが発生
  2. 引張力を軸方向鉄筋が受け持ち、やがて引張鉄筋が降伏する
  3. 鉄筋の伸びによってたわみが増加(=変形の予兆
  4. 最終的に圧縮縁のコンクリートのひずみが限界に達し、圧縮破壊(圧壊)に至る

せん断破壊のメカニズム

  1. 作用するせん断力に対して部材のせん断耐力が小さい場合に生じる
  2. 曲げひびわれの発生後、軸方向鉄筋が降伏する前に、せん断スパン内に斜めひびわれ(せん断ひびわれ)が発生
  3. 斜めひびわれの進展に伴ってせん断補強鉄筋が降伏
  4. 最終的にひびわれが圧縮縁を貫通 急激な荷重低下(=予兆なく崩壊)

せん断破壊が「特に危険」な理由を言語化する

答案でここを説明できるかどうかが分かれ目です。理由は3つあります。

  • 変形の予兆がない:曲げ破壊が「引張鉄筋の降伏」という段階を経てゆっくり進行するのに対し、せん断破壊は斜めひびわれ発生後に急激に進展し、警告なく崩壊する。
  • エネルギー吸収能力に乏しい:小さい変形で耐力を失うため、地震のような繰返し作用を受け止められない。
  • 局所的でない:斜めひびわれはせん断スパン全体にわたって発生するため、部材のみならず構造物全体の崩壊(落橋・倒壊等)に直結する。

だからこそ設計の基本原則は「せん断破壊 < 曲げ破壊が先行する構造(曲げ破壊先行型)」の確保になります。

2. [H28]Ⅱ-1-7 解答例

[H28]Ⅱ-1-7

鉄筋コンクリートはり部材の曲げ破壊とせん断破壊について、それぞれのメカニズムと特徴を示し、脆性的な破壊を防止するための設計上の留意点を述べよ。

出題文の読み取りポイント

  • 要求は3つ——「曲げ破壊のメカニズムと特徴」「せん断破壊のメカニズムと特徴」「脆性的な破壊を防止する設計上の留意点」。見出しをそのまま3つ立てるのが最も安全です。
  • メカニズム」と「特徴」は別物です。メカニズム=壊れ方の連鎖、特徴=じん性/脆性とエネルギー吸収。両方を分けて書きます。
  • 対象は「はり部材」ですが、原理は橋脚(下部工)の塑性ヒンジでもまったく同じです。R4のような耐震設計の出題でも、この耐力階層の話がそのまま使えます。
解答用紙イメージ/24字×25行 [H28]Ⅱ-1-7
11.曲げ破壊のメカニズムと特徴
2 曲げモーメントが最大となる部材端部等で、引張鉄
3筋が降伏した後に圧縮縁コンクリートが圧壊する破壊
4形態である。鉄筋の降伏に伴いたわみが増大し、破壊
5に至るまでのエネルギー吸収量が大きいため、じん性
6的な破壊となる。破壊の予兆を捉えやすく、安全性確
7保の観点で最も好ましい破壊形態である。
82. せん断破壊のメカニズムと特徴
9 作用するせん断力に対しせん断耐力が小さい場合に、
10せん断スパンに生じた斜めひび割れが進展し、突如と
11して耐力を失う破壊形態である。スレンダーな部材で
12はトラス機構、ディープビームではタイドアーチ機構
13で抵抗するが、いずれも変形やエネルギー吸収量が小
14さくぜい性的な破壊となる。予兆がなく危険なため設
15計上絶対に避けるべき形態である。
163. 脆性的な破壊を防止する設計上の留意点
17 ぜい性的なせん断破壊を防止し、曲げ破壊が先行す
18るように断面設計を行う。具体的には、せん断耐力を
19曲げ耐力以上に大きく確保し、想定外の過大な力が作
20用しても部材が塑性変形してエネルギーを吸収できる
21構造とする。さらに、帯鉄筋等のせん断補強鉄筋でコ
22アコンクリートを拘束し、塑性ヒンジの変形性能(回
23転能力)を確実に確保する。以上
24
25

参考文献:2022年制定 コンクリート標準示方書[設計編]/月刊コンクリート技術(JCI 2018.10)

この解答例の骨格

ブロック書いていることねらい
1.曲げ破壊
(7行)
曲げMが最大となる部材端部等で引張鉄筋が降伏 → 圧縮縁が圧壊。たわみ増大でエネルギー吸収量が大きくじん性的。予兆を捉えやすく安全性確保の観点で最も好ましいメカニズム+特徴を分けて書き、「好ましい破壊形態」と価値づけまで踏み込む
2.せん断破壊
(8行)
せん断耐力が小さい場合に斜めひび割れが進展し突如として耐力を失うスレンダーな部材はトラス機構、ディープビームはタイドアーチ機構で抵抗。予兆がなく設計上絶対に避けるべき抵抗機構の名称を出して専門性を示す。曲げ破壊との価値づけを対にする
3.設計上の留意点
(8行)
曲げ破壊先行型の断面設計/せん断耐力を曲げ耐力以上に確保/想定外の過大な力でも塑性変形でエネルギー吸収/帯鉄筋でコアコンクリートを拘束し塑性ヒンジの回転能力を確保設問の「脆性的な破壊を防止する」に直答。耐力階層横拘束の2本立て

この答案で効いているキーワード

  • トラス機構/タイドアーチ機構:せん断の抵抗機構を、部材のスレンダー比で書き分けています。これが書けると専門的学識の評価が一段上がります。
  • 回転能力:塑性ヒンジの変形性能を「回転能力」と言い換えている点。設計実務の語彙です。
  • 「安全性確保の観点で最も好ましい」「設計上絶対に避けるべき」:単に現象を説明するだけでなく、設計者としての価値判断を示しています。Ⅱ-1でも技術者としての判断が見えると印象が変わります。

3. 脆性破壊を防止する設計上の留意点

示方書ベースで整理すると、留意点は2つに集約されます。①せん断破壊そのものを防ぐ②曲げ破壊であっても脆性化させない——この2段構えです。

① 曲げ破壊先行型の設計(せん断破壊の防止)最重要

部材のせん断耐力が、曲げ降伏時の耐力(あるいは大地震時等の偶発作用により生じる最大せん断力)を十分に上回るように、適切なせん断補強鉄筋(スターラップ・帯鉄筋)を配置し、耐力階層(曲げ耐力<せん断耐力)を明確に設定する設計を行うこと。

▶ 理由:せん断破壊はエネルギー吸収能力に乏しく、変形の予兆なく急激な耐力低下を伴う脆性破壊であり、部材のみならず構造物全体の致命的な崩壊(落橋や倒壊等)に直結するためである。そのため、大地震等の想定外の過大な作用を受けた場合でも、じん性に優れた曲げ破壊を意図的に先行(塑性ヒンジ化)させることで、構造物全体として高いエネルギー吸収能力(冗長性・修復性)を発揮させ、人命に関わる壊滅的な被害を防止する必要があるためである。

② 過補強の禁止・帯鉄筋による横拘束最重要

対策①:過補強の禁止——軸方向鉄筋が過大にならないよう引張鉄筋比に上限を設けること。
対策②:帯鉄筋による横拘束——地震時に塑性ヒンジの形成が想定される部位(橋脚基部等)においては、十分な量の帯鉄筋や中間帯鉄筋を密に配置し、内部のコアコンクリートを拘束する設計とすること。

▶ 理由:曲げ破壊であっても、軸方向鉄筋量が過大(過補強)な場合や、鉛直部材で高い軸方向圧縮力が作用する場合には、引張鉄筋が降伏する前に圧縮縁のコンクリートが先に圧縮破壊(圧壊)を起こし、結果として変形能力の乏しい急激な脆性破壊となってしまうためである。これを防ぐためには、鉄筋比を制限して確実に鉄筋を先行降伏させるとともに、帯鉄筋による「コンクリートの横拘束効果」によって圧縮側の限界ひずみと耐力を引き上げ、部材のじん性(変形性能)を飛躍的に向上させる必要があるためである。

「曲げ破壊なら安全」ではない——ここが差のつくところ

多くの答案は①(せん断破壊の防止)で止まります。しかし示方書が求めているのはその先で、曲げ破壊であっても過補強なら脆性的に壊れるという点です。

引張鉄筋が多すぎる(過補強)と、鉄筋が降伏する前にコンクリートが圧壊してしまい、変形の予兆がないまま壊れます。だから引張鉄筋比に上限を設けて鉄筋を確実に先行降伏させる。そのうえで帯鉄筋の横拘束で圧縮側の限界ひずみを引き上げ、じん性をさらに高める——この2段構えを書ければ「過補強」というキーワードとともに高評価が狙えます

4. 対比まとめ

比較項目曲げ破壊せん断破壊
進行の様子引張鉄筋降伏 → たわみ増大 → 圧壊(段階的・予兆あり斜めひびわれ発生 → 補強筋降伏 → 貫通 → 急激崩壊(予兆なし
変形性能大きなたわみを伴う(変形の予兆)小さい変形で破壊(予兆なし)
エネルギー吸収(じん性的・塑性ヒンジ)(脆性的)
破壊の危険性部材のみの局所的な被害(修復性あり)構造物全体の崩壊・落橋・倒壊に直結
設計上の位置付け意図的に先行させるべき破壊形態確実に防止すべき破壊形態(耐力階層で制御)

5. 答案に入れたいキーワード集

曲げ破壊
引張鉄筋の先行降伏大きなたわみ(変形の予兆)圧縮縁の圧壊じん性的破壊エネルギー吸収大塑性ヒンジ冗長性・修復性
せん断破壊
斜めひびわれ(せん断ひびわれ)せん断スパンせん断補強鉄筋の降伏圧縮縁の貫通急激な荷重低下脆性的破壊変形の予兆なし構造物全体の崩壊に直結
抵抗機構
トラス機構(スレンダーな部材)タイドアーチ機構(ディープビーム)
留意点①
曲げ破壊先行型の設計耐力階層(曲げ耐力<せん断耐力)スターラップ・帯鉄筋偶発作用(大地震等)
留意点②
過補強の禁止引張鉄筋比の上限帯鉄筋・中間帯鉄筋の密配置コアコンクリートの横拘束圧縮限界ひずみの向上回転能力

6. まとめ

  • 設計の基本原則は破壊モードの制御——せん断破壊(脆性・崩壊直結)を確実に防ぎ、曲げ破壊(じん性・予兆あり)を先行させる
  • メカニズムは曲げ=「引張鉄筋降伏 → たわみ増大 → 圧壊」せん断=「斜めひびわれ → 補強筋降伏 → 圧縮縁貫通 → 急激な荷重低下」
  • せん断が危険な理由は予兆がない/エネルギー吸収が小さい/せん断スパン全体に及ぶの3つ。
  • 留意点は2段構え。①耐力階層(曲げ耐力<せん断耐力)②過補強の禁止+帯鉄筋による横拘束
  • 過補強」「コアコンクリートの横拘束」「耐力階層」は必ず答案に載せる。

参考文献

・2022年制定 コンクリート標準示方書[設計編]

・月刊コンクリート技術(JCI 2018.10)

※本記事は筆者が学習用にまとめた個人の備忘録です。試験対策としての正確性を保証するものではありませんので、必ず最新の示方書等の原典をご確認ください。

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この記事を書いた人

30代建設コンサル勤務。橋梁設計技術者。
j-adv.comは主に勉強用の個人備忘録ブログです。
技術士試験や関連試験、その他個人的な備忘録です。

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